東京地方裁判所 昭和61年(ワ)12632号 判決 1988年7月26日
主文
被告らは原告に対し、別紙物件目録記載の各土地につき、釧路地方法務局昭和五六年七月九日受付第一九一〇一号抵当
権設定登記の各抹消登記手続をせよ。
訴訟費用は被告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
主文同旨
二 被告ら
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 原告の請求原因
1 原告は別紙物件目録記載の各土地(以下「本件土地」という。)を所有している。
2 訴外亡佐々木真太郎(以下「亡真太郎」という。)のため本件土地につき釧路地方法務局昭和五六年七月九日受付第一九一〇一号抵当権設定登記が経由されている。
3 亡真太郎は昭和六〇年三月二六日に死亡し、被告らが同人の相続人となったが、被告らのほかに同人の相続人はいない。
よって原告は被告らに対し、本件土地の所有権に基づき、右各登記の抹消登記手続をすることを求める。
二 請求原因に対する被告らの認否
請求原因は認める。
三 被告らの抗弁
1 訴外新日本観光興業株式会社(以下「新日本観光興業」という。)は、昭和五六年四月二四日現在、訴外新日本北海道株式会社(以下「新日本北海道」という。)に対し一一億六九〇九万二三六一円、同会社及び原告の代表取締役である訴外沖本竜山に対し一九二三万七一五〇円、原告に対し三三七六万一六二円の各貸金債権を有していた。
同日、新日本北海道は原告及び沖本の右各債務を免責的に引受けて、右各債務と自己の右債務のうち一億〇一八八万一六八八円の合計一億五四八八万円を代物弁済により消滅させた。
さらに同日、新日本観光興業は新日本北海道との間で、右残債権一〇億六七二一万〇六七三円につきこれを消費貸借の目的とし、原告は新日本北海道の右債務を併存的に引受けた。次いで新日本観光興業は原告の異議なき承諾を得て、亡真太郎に対し原告に対する右債権を譲渡した。
2 亡真太郎は原告に対する右債権の担保のため、右同日、原告との間で、本件土地について債権額を一〇億六七二一万〇六七三円とする抵当権を設定する契約をし、これに基づき原告主張の各登記を了した。
四 抗弁に対する原告の認否
抗弁は認める。
五 原告の再抗弁
1(一) いずれも株式会社である新日本観光興業と新日本北海道との間で締結された準消費貸借契約に基づく前記債権は、期限の定めのない債権であるところ、右契約締結の日である昭和五六年四月二六日から五年が経過した。
(二) よって原告は本訴において右時効を援用する。
2(一) 前記抵当権設定にあたって、原告は亡真太郎との間で、原告が銀行もしくはこれに準ずる正規の金融機関又はその事業協力者から借入れを行いその債権につき本件土地に第二順位の抵当権を設定した場合は、亡真太郎において元利合計五億円を限度として前記抵当権の順位の一部譲渡を行うという合意をした。
(二) 原告は昭和五九年四月二五日、訴外向後豊三から五億円を借入れる約束をし、同人に対し本件土地につき債権額五億円の抵当権を設定した。
(三) そこで原告は被告らに対し、昭和六一年八月八日到達の書面で、亡真太郎の有していた前記抵当権につき順位の一部譲渡の登記に必要な書類の交付を同月二五日までに行うよう催告し、右期限が経過したときは亡真太郎との間の前記抵当権設定契約を解除する旨の意思表示をした。
六 再抗弁に対する被告らの認否
1 再抗弁1は認める。
2(一) 再抗弁2(一)、(三)は認める。
(二) 同2(二)は不知。
なお原告主張の合意により亡真太郎や被告らが抵当権の順位の一部譲渡を行う義務を負うのは、銀行又はこれに準ずる正規の金融機関すなわち相互銀行、信用金庫や社会的にも資金的にも相当の信用を有する者から、原告が現実に借入れを行いかつ本件土地に第二順位の抵当権を設定したときに限られる。向後は正規の金融機関に準ずる者に該当せず、原告に対し現実に金銭を交付していないし、本件土地には亡真太郎の抵当権に次いで他の根抵当権が設定されていて向後の抵当権は第二順位とはいえないから、いずれにせよ被告らに抵当権の順位の一部譲渡を行う義務は発生していない。
七 被告らの再々抗弁
亡真太郎は、本件土地の一部について訴外小松建設工業株式会社が申し立てた不動産強制競売事件(釧路地方裁判所昭和五八年(ヌ)第一六号)において、昭和五九年一月三一日執行裁判所に対し、前記債権を有する旨の債権届出書を提出したので、同債権の消滅時効は中断した。
八 再々抗弁に対する原告の認否
再々抗弁は認める。
九 原告の再々々抗弁
被告ら主張の不動産強制競売の手続は、民事執行法六三条二項により昭和六一年七月一〇日に取り消された。
一〇 再々々抗弁に対する被告らの認否
再々々抗弁は認める。
第三 証拠(省略)
理由
一 請求原因及び抗弁については当事者間に争いがない。
また本件土地に設定された亡真太郎の抵当権の被担保債権は、いずれも株式会社である新日本観光興業と新日本北海道との間に昭和五六年四月二四日締結された準消費貸借契約に基づく弁済期の定めのない貸金債権であることにつき当事者間に争いがないから、右債権については右契約締結の日から相当期間(本件においては一か月を相当と認める。)を過ぎた日から五年を経過することにより消滅時効が完成するというべく、したがって右債権は昭和六一年五月二四日の経過によって時効消滅したというべきであり、原告の再抗弁1(一)(二)は理由がある。
二 被告らは、右再抗弁に対し再々抗弁として、本件土地の一部につき開始された不動産強制競売手続において、亡真太郎が抵当債権者として前記債権にかかる債権届出書を右時効期間内に執行裁判所に提出したので、右時効は中断したと主張するが、右債権の届出は、民事執行法五〇条に基づいて執行裁判所の催告に応じ同条所定の債権者らの義務の履行としてなされる陳述に過ぎず、自己の債権を執行手続を通じて行使しようとする確実明瞭な意思の表われとみることは未だできないのであって、配当要求や仮登記担保契約に関する法律一七条による債権の届出あるいは破産債権の届出などと異なりその手続を欠くことにより自己の権利の行使につき制約を受けたり、債権の存在を否定される効力もないことを考えると、これが裁判上の請求や破産手続参加と同視すべき時効中断事由に当たるということはできず、またこれが民法一五三条の催告に当たるとしても催告の効力の止んだ時から六か月以内に同条所定の時効中断事由がさらに生じたことにつき主張がなく、また他の時効中断についての主張もないから、被告らの右再々抗弁は失当である。
三 右の次第で原告の請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
別紙
物件目録
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